2006/09/09
死にたちむかうのに、手を握るしか方法のない人間の行為に、生きることの素晴らしさを感じる
肺をやられ療養生活を余儀なくされた、作者の自伝的なお話です。
終わりの方で急に基督の話になるので、
急な展開に思わず「ん?」と思いましたが、
作者の生涯をかけてのテーマです。
話の展開的には突然ですが、
むしろ自然な流れのようにも感じました。
子供の頃は今よりもっと人生について考えていた気がします。
それは人生というものを直接考えるのではなくて、
知らず知らずのうちに感じていた。
生も死も今よりもっと近くにありました。
それが多忙な生活で忘れられていく。
忘れられるというより、忘れようとしている。
非日常な世界にほうりこまれないと人はそんなことに気付かない。
気付かないというより、気付かないフリをしている。
主人公が「それでいいのだ」と繰り返しつぶやきます。
これでいいのだってやっぱすごい言葉だな。
満潮の時刻に産まれ、干潮の時刻に死んでいく。
死にたちむかうのに、手を握るしか方法のない人間の行為と無力さに私は美しさを感じます。
遠藤周作
満潮の時刻